【単行本デザイン・印刷&製本】『カジュエロ町のサントス』
当社が運営する本作りのサイトさくら製本にてご縁をいただいたお客様、
それも何冊も商業出版をしてきたベテラン作家さんから、
商業出版を考えている本のデザインをしてほしい
良いものを作ってください
とチャンスをいただきました。
制作の手順
- デザインチームを組みます
- デザインインスピレーションを得るために、各々が本を読みます
- いただいた文章、お借りした写真だけでなく、多種多様な素材を集めます
- 使用する用紙、印刷色、本文の版面、表紙デザイン、製本方法等々、装丁にかかる様々な要素を検討し、トータルで組み上げていきます
- 何度も試作品を作り、データだけでなく、手に持った時、読み進める時の感覚を確かめます
- 納得いくものができるまで、何度でも2〜5を繰り返します
完成写真
細部写真
デザインについての小咄
ストーリー上、またデザインを進めていく上で、
重要な鍵になるのはマリア像であると感じていましたが、
今回お借りした写真の中にはありませんでした。
別のマリア像の写真を使うか、
それともマリア像無しのデザインのまま進行するか、
ここでデザイン作業は一旦停滞してしまいました。
永井様はこれまでにいろいろな本を出版されています。
実は今回のお仕事をいただく前に、
つい習性で既刊本を勝手に買い集めて少しずつ読み進めていました。
デザインに悩みながら、何かヒントがないかと本の続きを読んでいると、
なんと、既刊本のうちの一冊に、
鍵となる実際のマリア像の実物写真がはっきりと掲載されていたのです。
ご本人の許可をいただき、それをベースにデザイン・画像加工を行い、
表紙のデザインを完成させることができました。
詳細
四六判サイズ単行本
本文:モノクロ印刷
表紙:ハードカバー(角背),1色印刷
カバー・帯:片面カラー+マットPP
お客様
永井竜造様(作家)
最高のものができましたね
ちょっと良すぎるかもしれません(笑)
転載:書評
『カジュエロ町のサントス』は、
同人誌「九州文學」編集長により編集され、書評も掲載されています。
転載の許可をいただきましたので、下記の通り転載いたします。
【 書評 】
本書は、八十二歳の著者が実際に体験したことを基にした小説である。
主人公真吾は太平洋戦争を危うく生き残った。
壮年に至る日々、真吾は一度ならず事業に失敗していたが、「大陸で生きなさい」という父の遺言に導かれ、エメラルド採掘に冒険とロマンを求めて、ブラジルへ向かう。
真吾はブラジルでマルシアという生涯の伴侶を得たが、現地で採用した鉱山監督のアジューソンは、五十三人を殺したと噂のピストレーロ(殺し屋)であった。
マルシアとアジューソンに支えられ、真吾は日本人として初めてブラジルにおけるエメラルド採掘事業に乗り出す。本書から読者は様々な事を学ぶだろう。
戦時中の命からがら生き延びた経験から培われた弱い者を助けたいという思いから、後先考えずに宝石採掘現場の町の貧しい人々に対する食料援助に突き進む人間としての正しさ。 さらには、宝石採掘のノウハウ、困難に直面した時の事業経営者の心構え、等々。それぞれ の分野の読者も教えられること大であろう。さらに、最も肝心なことだが、本書は読み物として大変面白い。
まずは、主人公を取り巻く人々がまことに魅力的である。
妻マルシアは、真吾の考えに共鳴し真吾の窮地に素晴らしいアイディアを提案して問題を解決する。魅力的かつ尊敬すべき女性である。
のちに親友となり、真吾の事業を引き継ぐことになるアジューソンは、困ったときに助けてくれる心強い相棒である。
さらに、現地の人々の飾らない姿が愛おしい。剥き出しの愚かさ、哀れさが、それらの人々 に寄り添った目線で、愛情あふれる筆致で描かれている。著者はそれらの人々を巻き込んでの、泣いたり笑ったりの活動の中心にいたのである。
それらの濃密な人間ドラマと合わせ、ブラジルの自然の驚異にも息を飲む。
十メートル以上、直径四十cmもありそうな大蛇が道を横切っていて、そいつが道を横断するまで三時間も車の中で待った、などという体験を聞いたことがあるだろうか。また、カエルの小便が毒液で、それで火傷するなどということが信じられるだろうか。本書は、人間としての生き方を、著者の体験を通じ、手に汗握る冒険譚として学ばせてくれる稀有の小説である。
私は「リアル」を忘れた現代の日本人に、生きることの楽しさ、醍醐味を教えてくれる本書を読ませたいと切に思う。
この物語は、わくわくするような冒険の旅に読者を誘ってくれる。そして、読み終わったあと、読者は頭の中にカジュエロ町の素敵な仲間が住みついていることに気づくだろう。同人誌「九州文学」編集長 木島丈雄
転載:印刷・製本担当からのご挨拶
実はこのたび、著者・永井竜造様より
「印刷・製本にかける思いを、この本の奥付の前に掲載しないか」と
ご提案をいただきました。
『カジュエロ町のサントス』は商業出版を予定している大著です。
ご厚意をもったいなくもありがたく受け取り、
印刷・製本を業とする一介の本好きがその思いを綴りました。
WEBへの転載許可をいただきましたので、こちらに転載いたします。
【印刷・製本担当からのご挨拶】
本来当社のような印刷製本屋は本づくりの裏方であるため紙面で何かを伝えることはしないものですが、「カジュエロ町のサントス」著者・永井竜造様より機会をいただきましたので、貴重な紙面を拝借して一言ご挨拶を申し上げます。
はじめに、本著『カジュエロ町のサントス』は、人間愛に満ちた魅力的な小説であり、このような素晴らしい作品の印刷・製本を担当させていただきましたことに心より感謝申し上げます。
さて、情報革命後の現代、誰もが情報を収集し発信できるようになりました。画面は様々な情報を代わる代わる表示し、電子情報はその利便性と即時性ゆえに変化を続けます。新しい情報が生まれ誤った情報は訂正され古い情報は削除され、情報の多様性と柔軟性と正確性を担保しています。電子書籍という形式も馴染みあるものとなりました。ところが昔と変わらず、手に取ることのできる本は人々に愛されています。それはなぜでしょうか。
本と電子情報との違いは、その物理的な性質はもちろん、時間を止めることにあると考えます。人には伝えたい思いがあります。残しておきたい物語があります。それは友人や同好の士、大切な人、未来の自分に向けてかもしれません。今のこの瞬間を、移ろいやすい人の思いを、消えゆく物語を、本という形にとじ込めます。そして本は時代を超えて「あの時の作り手」と「今の読み手」を繋ぎます。
印刷した紙を束ねて綴じたものを私たちは「本」と呼びます。本という字は、物事の根本・基本となるものという意味を持ちます。本はだれかのおおもと、はじまりになり得るもので、全ての本はそういった可能性をとじ込めたものと私たちは考えています。
偶然手に取った本の物語に感銘を受けた、もらった本が自分の人生を変えた、この本にはあの人の思いが残っている、この本棚にはあの時の私がいる――皆様の作る一冊は、変化を続ける現代において、読み手が基本に立ち返り根本を考え直す契機の一冊となるかもしれません。
私たちは皆様の思いを胸に、これからも文学や小説をはじめ、日記、書画、絵画、漫画等全ての本づくりを応援し、今この時を未来に託すお手伝いをして参ります。
株式会社キンキ 代表取締役 宮本 佳典
掲載させていただき、感無量です。ありがとうございました。
最後に
書評にもあります通り、著者の実体験が基にある本書は、
ブラジルの厳しい自然とそこに住まう人たちのリアルが書き出され、
読者の好奇心を刺激してくれるだけでなく、
著者自身のもつ大きな人間愛の物語でもあります。
原稿をいただいて読み始めてすぐに引き込まれ、
そのまま一気に読み終わってしまいました。たいへん面白い本です。
商業出版のあかつきにはぜひお手にとってみてください。